世界で活用が進む「オープンバッジ」の最前線を探る
~オープンバッジで専門士業の世界はどう変わる?~ Vol.2

ライター 高橋秀和

2020/07/29

デジタル形式で資格やスキルの証明ができる仕組み、「オープンバッジ」。その普及で、専門士業の世界はどう変わるのか、本企画で検証しています。 Vol.1ではマーケティングの視点から、「士業選び」がよりシビアになるとともに、うまく活用することで新たな顧客層へリーチできる可能性を解説しました。 Vol.2の今回は、「士業の人事戦略」にどのような影響を及ぼすかを考えていきます。

「スキルのポートフォリオ化」が変える採用のあり方

前回ご紹介したように、「オープンバッジ」の特色は「相続」「事業承継」「M&A」「知的財産」といった細かい分野別のスキルを可視化できる点にあります。

つまり、スキルをポートフォリオ化して公開できるわけです。これは、採用においても、人材育成においても大きな変化をもたらします。

そこで、まずは採用について考えてみましょう。

学生や転職希望者にとっては、わざわざ履歴書を別途用意する必要がなくなるだけでなく、裏付けのある自己アピールが可能となります。いつ、どのスキルを習得したかという成長のプロセスを、改ざんや偽造ができないデータとして公開できるからです。

この学習歴の情報は、人材を求める側にとっても価値があります。

たとえば税理士試験の合格科目は、履歴書だと単なる羅列に過ぎませんが、「オープンバッジ」ならばどの科目から合格したかがわかります。法人税法や相続税法から合格しているのか、消費税法、所得税法から合格しているのかで、その人の考え方も窺い知ることができるでしょう。1年で複数科目に合格する人もいるでしょうが、それならそれで資格試験に対する学習能力の高さがわかるというものです。

スキルを獲得歴が可視化されることで、明るみになるのが求職者にとって都合の良い情報ばかりでないのも、面白いところです。スキル獲得のスパンが空いていれば、「この期間は意欲が減退していたのだろうか」という予測も成り立ちます。

また、社会の動きと併せて見ることで、「このスキル習得に取り組んだのは、こういうトレンドがあったからだろうか」と考えることもできるでしょう。

■人事担当者の力量が問われ、事務所の価値向上が不可欠に?

そういう意味では、採用時にどれだけ分厚い求職者情報を得られるか、人事担当者の力量に左右されてしまいます。

「情報を読み取る力」と、それをもとにした「適切に聞き出す力」。これらは、従来から人事担当者に求められる能力ではありました。しかし、今後人口減少が加速度的に進んでいけば、数少ない“パイ”の奪い合いになることは必至です。

競争が熾烈化していく中で、高度な能力を持つ人材をいかに獲得するかは、事務所としての持続可能性にも密接に関わってきますから、「オープンバッジ」が普及していけば、採用の難易度が高くなることは間違いないでしょう。

一方で、従来の就活対策がそうであったように、採用側の“思惑”が知れ渡ることで、求職者側がコンスタントにスキルを獲得しようというマインドセットが根付く可能性もあります。

エントリーシート作成に注ぎ込まれていた労力が、オープンバッジという“スキル・ポートフォリオ”づくりにシフトすれば、必然的に人材の質が底上げされるでしょう。そうなると、「求職者を選ぶ」余裕はなくなり、「求職者から選ばれる」存在となる必要が生じるかもしれません。

「可視化」は課題を炙り出し、解決法を生み出すと以前からいわれています。

事実、業務の可視化は、働き方そのものを変えてきました。それよりもさらに可視化の粒度を高め、一人ひとりの構成要素を炙り出してしまう「オープンバッジ」は、スキルを売り物にしてきた士業事務所のあり方そのものを変えかねません。

この変化を悲観的に捉えるのか、ポジティブに捉えて中長期的な戦略に生かすかは、事務所次第でしょう。後者のためにできることは何か。次回は、そこにつながる「オープンバッジ」の有効な活用法を探っていきます。

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