佐藤信祐先生が教える 10分でわかる組織再編税制の最新論点 第1回

公認会計士/税理士 佐藤信祐

2020/07/31

組織再編税制といえば、税制の中でもとりわけ複雑で難しい分野ですから、その動向を追いかけるのもなかなか大変。 そこで、組織再編の専門家である佐藤信祐先生に、ここ最近で話題になった組織再編のトピックを取り上げ、解説してもらいます。
第1回目となる今回は、昨年、雑誌などでも取り上げられ、実務家の間でよく話題に上った「TPR事件」を取り上げ、そのポイントを解説していただきました。

1.TPR事件(東京高判令和元年12月11日TAINSコードZ888-2287)

この「TPR事件」は昨年、実務家の間でとても話題になった判例です。

この事件で裁判所は、

●完全支配関係内の合併であっても「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続」が必要であるのに対し、

●納税者が行った合併において事業の移転がなされていない

ことを理由に、包括的租税回避防止規定(法法132の2)の適用を認めました。

 

しかしながら、平成22年度税制改正において、

●完全支配関係内の合併であっても、

●「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が必要である」とは言えなくなっています。

 

すなわち、グループ法人税制により、

●内国法人から完全支配関係のある他の内国法人に対して資産を譲渡したとしても、譲渡損益を繰り延べることになったため(法法61の13)、

●「完全支配関係内の組織再編成において事業の移転が必要である」

という理論は成り立たないのです。

 

それを明らかにした制度が、適格現物分配の制度(法法62の5)です。

なぜなら、

●適格現物分配の制度では、事業の移転を前提としていないことから、

●完全支配関係内の適格現物分配のみが規定されており、

●かつ、支配関係が生じてから5年以内の適格現物分配に対しては、みなし共同事業要件が認められていないからです。

 

さらに、「事業を移転しない適格分割若しくは適格現物出資又は適格現物分配」について、

●繰越欠損金の使用制限、特定保有資産譲渡等損失額の損金不算入の特例計算が定められていることから(法令113⑤~⑦、123の9⑨~⑪)、

●現行法上、事業を移転しない適格組織再編成が存在することが明らかです。

 

それだけでなく、平成22年度税制改正では、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎ(法法57②)も導入されています。

●残余財産が確定した時点では、解散法人において事業が存在しないことから、

●事業単位の移転に伴って繰越欠損金が引き継がれることはあり得ません。

 

すなわち、

●理論上は、事業の移転を伴っていなくても、残余財産の確定により繰越欠損金の引継ぎが認められているのですから、

●適格合併の場合にだけ事業の移転を要求するというのは、平成22年度税制改正後における包括的租税回避防止規定の解釈として成り立ちません。

2.実務上の対応

そうは言っても、TPR事件が公表されたことにより、

●「完全支配関係内の組織再編成であっても事業単位の移転が必要である」と誤解をした税務調査官が現れることは容易に予想されます。

●また、いったん包括的租税回避防止規定を適用すべき事案であると判断すると、TPR事件を参考にすることができないことが分かっても、違うロジックにより包括的租税回避防止規定を適用しようとしてくることが考えられます。

 

すなわち、

●理論上は、適格合併以外の手法により事業を移転した場合にも繰越欠損金の引継ぎを認めるべきであるが、

●移転する事業に係る繰越欠損金の計算の困難性を考慮した結果、適格合併以外の手法に対しては繰越欠損金の引継ぎが認められなかった(「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」参照)。

●このような制度の簡素化を利用して法人税の負担を不当に減少させる行為は、制度趣旨に反することが明らかであることから、

●包括的租税回避防止規定を適用すべきである。

と主張してくる可能性があるのです。

 

このように、平成22年度税制改正後の事件に対してTPR事件の射程が及ばないとしても、TPR事件を連想させるような組織再編成は極めて危険であるということが言えます。

そのため、実務上は、税目的が主要な目的ではなく、事業目的が主要な目的であることを明らかにしたうえで組織再編成を行っていく必要があると考えられます。

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