特例事業承継税制2年で適用件数400件→6000件!
導入コンサルはビジネスになるのか?<2>

税理士 伊藤俊一

2020/06/22

特例事業承継税制が誕生してから丸2年。それまで事業承継税制といえば「使えない税制」の代名詞ともされ、年間でわずか400件ほどの利用に留まっていました。
ところが、平成29年度税制改正で「特例事業承継税制」が誕生して以来、その適用件数は一気に年間6,000件にまで跳ね上がっており、いかに同29年度改正が画期的あったかということを見せつける格好となりました。
しかし、そうは言っても、同税制を提案する専門家に伸し掛かるリスクは決して小さくないので、まだまだ二の足を踏んでいる先生方も少なくないでしょう。
そこで今回、「特例事業承継税制」の適用を支援する場合に、どれくらいの工数がかかり、どの程度の報酬が見込めるのか。そして、どのようなリスクが考えられるのか?さらには、これまで事業承継対策に取り組んだことのない会計事務所にとって、「特例事業承継税制」の適用をコンサルすることは経営上“アリ”なのか。そのリアルな現実を3回に渡って解説していきます。
第2回目となる今回は、前稿に引き続き特例事業承継税制適用にあたっての留意点を確認しつつ、後半では、会計事務所が適用を支援した場合の報酬について、そのあり方を検討してみたいと思います。

1)事業承継税制(特例)適用にあたっての留意点(前稿の続き)

①従来の持株会社方式はまだ生きている

金融機関の最近の提案書を見る機会は多々ありますが、現在でも従来の持株会社方式(従来の持株会社方式~新設法人資金調達方式~)は生きています。

もっとも古典的な持株会社スキームが下記です。

(STEP 1 ) 後継者が新設法人を設立。

(STEP 2 ) オーナーは新設法人へ本体会社株式を所得税基本通達59― 6 で売却。

 
このスキームには以下のようなメリットがあります。

  • 株式買取資金が貸方に計上される。本体会社が類似業種比準価額方式が取れるとすると、類似業種比準価額方式< 所得税基本通達59― 6 となり、最も株価が低くなる可能性が高い。

反面、以下のようなデメリットがあります。

  • 本体会社にキャッシュがある場合には、それも持株会社に貸し付ければよいが、ない場合外部借入となる。この場合、返済原資が①受取配当、②不動産賃貸料、③管理部門のバックオフィス外注支払料ぐらいしかないため、返済原資に乏しい。

 
事業承継税制(特例)とよく比較されるのは上記の新設法人資金調達スキームです。

なぜなら、

  1. 事業承継税制は特例消滅後、一般しか制度が残らない場合でも、納税猶予をしたければ事業承継税制を適用せざるをえなくなる
  2. 事業承継税制では代表権の返上が認定要件の1 つです(隠居制度)。新設法人資金調達スキームにおける新設法人の株主を現オーナー51%対後継者49%にしておけば「(現オーナーの)俺の目の黒いうちは最低限の経営権をグリップしておきたいという願望が叶えられる
  3. 事業承継税制は納税「猶予」制度です。一方で創業者利潤を欲する経営者も多く存在し、持株会社への売却により株式の現金化を図ることでキャピタルゲインを手中にすることが可能である(例えば、贈与税の納税猶予なら、代表権返上の際の役員退職慰労金支給しか、原則として、退任代表者にキャッシュを渡す手段はない。しかし、過大性判定回避のため、もしくは、多くのキャッシュを手中にしたいと考えるなら、納税猶予認定申請を受ける前に代表者所有の株式を金庫株するなど、現金化すればよい。残りについて、納税猶予の認定申請を受ければよい)。

という理由です。

要は、事業承継税制(特例)回避のための別プランとして挙げられることが多いからです。

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②導入する際の事前確認事項等、各種アカウンタビリティ

(イ)事前のアカウンタビィティについて

いったん適用を受けたら半永久的に適用を受け続けることになります。

例えば、特例が当初予定通り時限立法となり、一般しか制度が残らなくなった場合、特例対象株式以降の株式は一般により従来型の事業承継税制の適用を受けざるを得ないことになります。

また、ある程度の規模感がある中小企業では機動的な資本政策も困難になるでしょう。

したがって、

  • 納税猶予適用時に従来型の自社株式引き下げ策で株価を落としておく(納税猶予額を可能な限り低減させておく)
  • いつでも打消事由に該当した時に対応できるよう、納税猶予対象の税額は内部留保しておくことは必須と考えます。

 

(ロ)相続税の納税猶予スタートの際には遺言書の作成は必須

相続税の場合、後継者の主な要件に相続開始から5 か月以内に代表者就任、相続開始後8 か月以内に認定申請という非常にタイトなスケジュールのため、予め遺言書の作成をしておくことは必須となります。

なお、仮に遺言書なく遺産分割協議に持ち込まれても納税猶予対象株式のみの分割がなされていれば認定申請できます。

 

(ハ)信託株式

商事信託、民事信託、いずれにおいても信託された株式は納税猶予できません。

 

(ニ)株券発行会社

当該会社が株券発行になっている場合、不発行に速やかに変更すべきです。

 

(ホ)(後継者複数の場合)各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ、各後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと

 

この要件に関するポイントは下記です。

  • 同⼀の贈与者から複数の後継者が贈与を受けた場合には、それらの贈与のうち、最後に⾏われた贈与直後に有する議決権の数によって、各後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないかを判断します。
  • 議決権数の判定は「直接」保有している割合で判定し、「間接」保有している割合は考慮にいれません。

特にグループ関連会社が複数おり、同族関係者が複数、当該会社の株式を所有している場合、その判定は極めて困難を要します。また、相互保有株式における議決権停止株式についての考慮失念は極めて多いミス事例です。

 

(ヘ)贈与時に代表者を退任していること

贈与の時において、贈与者は中⼩企業者の代表者(代表権に⼀部制限がある者も含みます)を退任している必要があります。ただし、代表権のない役員として、会社の経営に関与することは可能です。また、約員として報酬を受け取っていても差し⽀えありません。

この要件に関するポイントは下記です。

  • 法人税基本通達9 ― 2 ―32との平仄、形式要件(同通達⑶ 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと)だけ充足しても実態要件(同通達「その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある」)を満たしていなかったら当然指摘項目となる。
  • 仮にどうしても現時点で代表権を返上したくないということであれば、従来型の事業承継スキーム(新設法人資金調達型スキーム)しか手段がないこと

(ト)資産保有型会社の適用除外要件

ポイントは、「イ 商品販売等(商品の販売、資産の貸付け⼜は役務の提供で、継続して対価を得て⾏われるもの。その商品の開発若しくは⽣産⼜は役務の開発を含む。)(※ただし、資産の貸付けの相⼿⽅ が「経営承継受贈者である場合」や、「その同族関係者である場合」には、当該資産の貸付けは商品販売等の事業活動に該当しません。)。」です。

文理で解釈すると資産(不動産)の貸付相手先が同族関係者であれば、要件を満たさない、ということです。

では、「商品の販売、役務の提供」なら同族関係者に対するものでも許容されるかという論点があります。例えば、子会社が親会社(主に持株会社)に業務委託手数料等を支払うといった具合です。

私見ですが、この場合でも当局に指摘される可能性はあると思われます。租税法の原則では通達は文理解釈しませんので、経済的実質が同一であれば同じ課税を行うという一方の原則(実質主義課税の原則)における勘案で判定される可能性は比較的高いのではないのか、と思われます。

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③遺留分対策

事業承継税制(特例)を導入する場合において最も丁寧に検証し、そしてアカウンタビリティが必要な項目です。現在の認定申請件数とそれに対する民法特例の採用件数を勘案すると、邪推ですが、多くの導入会社がこれを考慮していないものと想定されます。将来的にはこれに関する係争が非常に多くなるのでは?と考えます。

下記の方法が一般的です。

  1. 従来型の生命保険等を使った代償分割
  2. 民法特例
  3. 民法改正による10年前贈与(持戻しの対象にならない)

ただし、民法第1044条第1 項後段には十分な留意が必要です。

 

【改正後民法】

第1044条

1  贈与は、相続開始前の1 年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1 年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2  第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3  相続人に対する贈与についての第1 項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

この点、最判平成10年3 月24日(事件番号 平成9 オ2117)判決において、特別受益者への贈与と遺留分減殺の対象について下記の判断を示しています。

「民法903条1 項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法第1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。

けだし、民法第903条1 項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法第1044条、第903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。」

すなわち、10年前贈与だからといって安易に持戻し対象にならないとするのは危険です。

民法第1044条第1 項後段の「損害を加えることを知って」の立証責任は遺留や権利者にあります。それをもって立証不可能といいきる法曹もいるようですが、そうでない法曹もいます。つまり、考え方はケースバイケースであり、断言的な説明は控えた方が無難です。

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2)事業承継税制を活用するケースにおける報酬

下記にポイントと実際の現場所感を列挙します。

  • 通常顧問料に「絶対」内包しない。仮に会計事務所で継続届出書、年次報告書の管理をすることになると、管理は現実的に無理(非常に失念しやすい)。
  • この点、「特例承継計画→認定申請→各種申告書の作成」までをパッケージ料金とし、それ以降は可能であれば、クライアントマターにする。

具体的には、継続届出書、年次報告書の記載例雛形とエクセル等で作成した提出期限一覧表を作成し、クライアントになげる。原則、会計事務所においては継続管理は断ること。

 

「特例承継計画→認定申請→各種申告書の作成」までのパッケージ料金について、具体的には、以下のいずれかを採用しているケースが多い。当然のことながら会社規模によって認定申請に係る事務の煩雑さに変わりはないので、採算性という意味では後者の方が圧倒的によい。

  • 固定性 50万円~300万円(消費税別途、なお金額の下限と上限はネット検索をしてください、ここでは、敢えてぼかしています)
  • 変動性 納税猶予額の〇%

 

認定申請における各種要件チェック等の事務の煩雑さが顕著に表れるのは、主に「株主構成、資本構成が入り組んでいたり、関連会社が非常に多かったり、外国法人を複数有している場合等」である。

この場合、上記の変動性か、作業時間あたりのチャージ制 1時間当たり〇万円(消費税別途)を提案すべきです。

 

事業承継対策を検討する場合、最適タックスプランニングを提供するため、事業承継税制(特例)のみを提案することはまずありえません。したがって、「タックスコンサルティングフィー」として作業時間や難易度によってテイラーメイドで料金設定をすることが肝要である、ということは言うまでもありません。

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