特例事業承継税制2年で適用件数400件→6000件!
導入コンサルはビジネスになるのか?<3>

税理士 伊藤俊一

2020/07/27

特例事業承継税制が誕生してから丸2年。それまで事業承継税制といえば「使えない税制」の代名詞ともされ、年間でわずか400件ほどの利用に留まっていました。
ところが、平成29年度税制改正で「特例事業承継税制」が誕生して以来、その適用件数は一気に年間6,000件にまで跳ね上がっており、いかに同29年度改正が画期的あったかということを見せつける格好となりました。
しかし、そうは言っても、同税制を提案する専門家に伸し掛かるリスクは決して小さくないので、まだまだ二の足を踏んでいる先生方も少なくないでしょう。
そこで今回、「特例事業承継税制」の適用を支援する場合に、どれくらいの工数がかかり、どの程度の報酬が見込めるのか。そして、どのようなリスクが考えられるのか?さらには、これまで事業承継対策に取り組んだことのない会計事務所にとって、「特例事業承継税制」の適用をコンサルすることは経営上“アリ”なのか。そのリアルな現実を3回に渡って解説していきます。
第3回目となる今回は、事業承継税制(特例) を顧問先が使った場合に会計事務所が抱えるデメリット(リスク)として、「納税猶予の打ち切りリスク」「年次報告などの煩雑な業務」についてご説明します。

はじめに

前稿までに解説した通り、いちど納税猶予制度を導入すると、その会社は「原則として、半永久的に適用を受け続けなければならない」ことが確定します。

そこで会計事務所が、クライアントにこの税制を提案する際に必須である「アカウンタビリティ(説明責任)」と「各種考慮事項」を解説します。

これは会計事務所側にとっては留意点・盲点にあたる論点ですから、安易な導入を試みる前に必ず再検証すべき課題です。

なお、必須のアカウンタビリティや各種考慮事項のうち、極めて重要、すなわち、今後問題が顕在化してくるであろうと現時点でも簡単に予測できるものは、先稿と重複する箇所があります。

事業承継税制(特例)でクライアントが留意すべき事項

前述の通り、いったん適用を受けると半永久的に適用を受け続けることになります。

例えば、事業承継税制(特例)は10年間の時限措置とされていますが、当初予定通り10年間で期限が到来し、従来の事業承継税制しか制度が残らなかった場合(特例制度が廃止された場合)、特例対象株式以降の株式は、従来型の事業承継税制の適用を受けざるを得ないことになります。

また、ある程度の規模感がある中小企業では、機動的な資本政策も困難になるでしょう。

したがって・・・

  • 納税猶予適用時に、従来型の自社株式引き下げ策で株価を落としておく(納税猶予額を可能な限り低減させておく)
  • いつでも打消事由に該当した時に対応できるよう、納税猶予対象の税額は内部留保しておく

 

ことについて、事前説明と実行は必須といえます。

特に打切事由については量が膨大になりますが、クライアントが「知らなかった」では済まされない問題になるため、クライアントにご納得いただいた上、その「膨大な量」を一緒に、必ず確認してください。

筆者が事業承継税制(特例)をご提案する場合は、必ずそうしています。

ちなみに、事業承継税制(特例)とよく比較されるのは「新設法人資金調達スキーム」(スキームの概要は前稿までをご参照のこと)です。

なぜなら、

  1. 事業承継税制では代表権の返上が認定要件の1 つです(隠居制度)。新設法人資金調達スキームにおける新設法人の株主を現オーナー51%対後継者49%にしておけば「(現オーナーの)俺の目の黒いうちは最低限の経営権をグリップしておきたいという願望が叶えられる。
  2. 事業承継税制はあくまで納税「猶予」制度です。一方で創業者利潤を欲する経営者も多く存在し、持株会社への売却により株式の現金化を図ることでキャピタルゲインを手中にすることが可能である(この点、事業承継税制(特例)の場合、役員退職慰労金しか原則としてキャッシュインされませんが、当該役員退職慰労金とは別に現代表者が所有株式を金庫株とすることでキャッシュインの増加を図ることが可能です。当然、議決権比率が変動したり、場合によっては株価が上昇するため、どれくらいを現金化するかは総合勘案して検討します)。

という理由が挙げられます。

遺留分

事業承継税制(特例)を適用するにあたり、遺言書作成、特に遺留分侵害額請求に対する対応には十分なケアが必要です。

前稿でご紹介しましたが、「特例承継計画の提出件数及び認定申請件数」と「民法特例の適用件数」に、大きな乖離があります。「遺留分について争う事なく、うちうちで話がついている」のだと楽観的にとらえることもできますが、現実的には「遺留分について考慮されていない」というのが、正しい推測と個人的には考えています。

仮に遺留分侵害額請求があった場合、対象会社が贈与税の納税猶予の適用を受けている前提においては、下記の流れで対応します。

  • 贈与者死亡の場合、特例対象株式の全部が原則としてみなし相続される。なお、贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予に移行するためには別途切替確認が必要。
  • しかし、相続税の納税猶予においては、みなし相続対象株式のすべてについて自動的に承継されるわけではない。したがって、相続税の納税猶予に切替確認するタイミングで、予め遺留分侵害額請求により譲渡が予定される株式数(この株式譲渡による現金化金額が代償金交付の原資になります)を除外しておく必要がある。そして除外された後の残りの株式についてのみ相続税の納税猶予を選択する。
  • 当該判断は相続税の申告期限までに行う必要がある。

 

少し難しいので、具体的に説明します。

特例贈与者の死亡が、令和元年7 月1 日以後で

かつ、贈与税の納税猶予において、特例経営承継期間の最後の年度等以後である場合は、

金銭債務の支払いのために、特例対象株式を譲渡した場合(すなわち上記でいうところの代償金の原始を捻出するため、一部株式を現金化するということ)は、納税猶予は一部(譲渡した株式数に応じた分)だけ期限確定(打切事由)となります。

したがって、この場合、納税猶予対象株式の一部を代償金捻出のため、譲渡した場合においても当該譲渡株式に対応した分のみ打切になるので、場合によっては、実損は軽微になる可能性もあります。

 

一方、特例贈与者の死亡が、特例経営承継期間(最初の5年間)の中途で、

金銭債務の支払いのために、特例対象株式の譲渡が、特例経営相続承継期間内になる場合、

「1株でも」譲渡すると、 現行制度では全部期限確定(全部納税猶予取消)となるので留意が必要です。

このように「特例経営承継期間内の贈与者の死亡」と「それに対する遺留分侵害額請求があった場合」の対応案として上記の手段をとります。

すなわち、

・贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予に切り替わる株式が1,000株

・遺留分侵害額請求に対して他の相続人への遺留分支払原資捻出のための自社株譲渡に必要な譲渡株数が100株

とすると、相続税の納税猶予の選択について900株とします。当該切替確認後の相続税の納税猶予の特例対象株式は900株となり、100株は特例対象株式以外となります。

 

【参考 下記出典:週間税務通信/ 税務研究会 令和元年7 月29日 No.3566より筆者一部要約】

遺留分侵害額請求

○請求を受けた側(通常、後継者)……更正の請求

○請求した側(通常、後継者以外の他の相続人)……期限後申告等

特例対象株式を請求者に移転(返還)した場合

○請求を受けた側(通常、後継者)…… 納税猶予打切り⇒相続税納付、譲渡所得税

○請求した側(通常、後継者以外の他の相続人)……期限後申告等

なお、令和2 年度税制改正要望において、経済産業省より「民法改正(遺留分)を踏まえた確定事由の適正化、その他の所要の見直しを行う。」がありましたが、改正には至りませんでした。

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民法特例の現場の所感

民法特例に関する現場の所感

民法特例活用の場合、合意書の作成が必要となります。

これは、実質的に生前の遺産分割協議に近いものがあり、現場のコンサルティングの感覚では、「(オーナーとしては)経営に参画しない相続人まで自社株評価額や、自身の固有財産を見せたくない」という「親心」が働き導入にストップがかかるということが多々あります。

また、我々実務家と異なり一般人はそもそも「遺留分」という概念に不知な場合もあり、あえてその存在を教えてや、というのはまさに寝た子を起こす、そのものです。

合意書の作成にあたっては、中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル「民法特例」(中小企業庁財務課)を流用するのが、最も効率的でしょう。

上記マニュアルは「令和元年7 月」公表版が最新です。直近の改定で、個人事業主バージョンが追加されました。

これは、個人版事業承継税制に対応するためのものです。

しかし、「令和元年7 月」公表版においては、合意書全体のサンプル書式が削除されてしまったため、実務では旧バージョンの「平成28年4 月」公表版を用います。

 

さて、合意書のサンプルを確認すると

「(除外合意、固定合意−法4 条1 項1 号及び2 号)

第3 条 B、C及びDは、BがAからの平成○○年○○月○○日付け贈与により取得したY社の株式○○株について、次のとおり合意する。

①(除外合意)上記○○株うち□□株について、Aを被相続人とする相続に際し、その相続開始時の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない。

②(固定合意)上記○○株うち△△株について、Aを被相続人とする相続に際し、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を○○○○円( 1 株あたり☆☆☆円。弁護士××××が相当な価額として証明をしたもの。)とする。」

とあります。

一見、固定合意ではなく除外合意の場合は自社株の評価額が経営に参画しない他の相続人に分からないとも思われますし、実務では仮に実行する場合専ら除外合意しかとり得ませんので、この点安心かというと全くそうではありません。

合意書のサンプル続きを確認すると

「(後継者以外の推定相続人がとることができる措置−法4 条3 項)

第4 条 Bが第3 条の合意の対象とした株式を処分したときは、C及びDは、Bに対し、それぞれ、Bが処分した株式数に○○○万円を乗じて得た金額を請求できるものとする。

2 BがAの生存中にY社の代表取締役を退任したときは、C及びDは、Bに対し、それぞれ○○○万円を請求できるものとする。

3 前2 項のいずれかに該当したときは、C及びDは、共同して、本件合意を解除することができる。

4 前項の規定により本件合意が解除されたときであっても、第1 項又は第2 項の金員の請求を妨げない。」

とあるように、他の相続人は「おおよその」相続財産は把握できます。当該条項は必須の記載事項であるため、当該条項を削除して合意書作成をするのは不可能です。将来、係争に発展する可能性もあります。

したがって、上記諸事情によりどうしても民法特例が利用できないといった場合には

  • 税務上不利だが、生前に金庫株し、株式現金化資金を推定被相続人に予めプールしておく
  • 相続開始後、相続金庫株の実施、代償交付金の原資を確保
  • 各種生命保険加入

といった従来型の代償金捻出のための資金確保について各種シミュレーションする必要があります。

筆者の経験では上記各種理由より、現代表者=親、後継者=経営に参画する相続人「以外」

の相続人から「遺留分はどうなるのか?」と先にご指摘を受けた場合については民法特例の考慮要素とします。

いずれにせよ、遺留分絡みの本稿論点冒頭に述べたように、下記税賠事例以外で将来的に係争になる可能性が最も高いのはこの論点であると予想できます。

最後に~税賠を回避するために~

前稿でも触れましたが、実務では重要ですので重要事項を再度検証します。

  • 通常顧問料に「絶対」内包しない。仮に会計事務所で継続届出書、年次報告書の管理をすることになると、管理は現実的に無理(非常に失念しやすい)。
  • この点、「特例承継計画→認定申請→各種申告書の作成」までをパッケージ料金とし、それ以降は可能であれば、クライアントマターにする。

具体的には、継続届出書、年次報告書の記載例雛形とエクセル等で作成した提出期限一覧表を作成し、クライアントになげる。原則、会計事務所においては継続管理は断ること。

これは筆者が実務で行っている方法です。

この方法によれば契約書等は計2通となります。

①「特例承継計画→認定申請→各種申告書の作成」までのパッケージに係る契約書(細分化しても構いません)

②「継続届出書、年次報告書の記載例雛形とエクセル等で作成した提出期限一覧表を作成し、クライアントになげる。原則、会計事務所においては継続管理は断ること。」に係る覚書等

仮に②の「継続届出書、年次報告書の記載例雛形とエクセル等で作成した提出期限一覧表を作成」については、クライアントが管理できる(してくれるとの言質をとる)のであれば、報酬をとる、とらないかは貴事務所の判断にお任せします。

もっとも重要なことは「会計事務所における継続管理は「断ること」です。

事業承継税制(特例)に関しては税賠事例のトップは上記届出の提出失念になると予想されます。

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