契約書のポイント
~会社と税理士の顧問契約~<第2回>

鳥飼総合法律事務所 弁護士 
佐藤香織

2020/06/25



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第2回 顧問契約とは?

1 「顧問契約」という法律上の契約はない
契約について定めている法律には、民法、会社法……などさまざまあります。しかし、「顧問契約」という名前の契約は、民法をはじめ、どの法律を見ても存在しません。

では、会社と税理士との間の「顧問契約」は、法律的にはどういう契約でしょうか。
これは、通常は、民法で定める「委任」という契約に該当します。

そこで、民法の「委任」とはどういう内容か、まず、条文を見てみましょう。

【民法】
(委任)
第643条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

例えば、ある会計事務所のA税理士が、B社と顧問契約を締結するケースを考えます。

A税理士は、B社の社長と、顧問契約の内容について話をして、例えば、税理士の業務を次のような内容とすることで合意したとします。

✓ 税務書類の作成・申告の代理
✓ 税務調査の立会い
✓ 税務相談
✓ 総勘定元帳の作成

これを、上の委任の条文に当てはめてみると、「委任は、B社が、税務書類の作成等をすることをA税理士に委託し、A税理士がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」ということになります。委任契約は、このように、2つの意思表示が合致することで成立するのです。

2 委任契約によって税理士が負う義務
実は、契約書という書面を作らなくても、委任契約は成立します。口約束でも委任契約は成立するというのが、民法の定めです。

契約書のコラムなのに、契約書が不要とは何事だ! と思われるかもしれません。ただ、前回解説したように、「契約書」を作るだけの理由があるから作るのです。その理由について説明します。

委任契約が成立すると、税理士には義務が生じます。それが、かの有名な『善管注意義務』です。これも、民法の条文を見てみましょう。

【民法】
(受任者の注意義務)
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

民法では、委任契約の受任者、つまり税理士に、このような義務が生じると定めています。言葉そのものが条文に書かれているのではありませんが、これが『善管注意義務』と言われるものです。
では『善管注意義務』とは、どんな義務でしょうか。これは、次のように説明されます。

『受任者の属する階層・地位・職業等において一般的に要求されるだけの注意義務』

これを見て、どんな義務? と思った方もいらっしゃるかもしれません。私も、「税理士がどんなことをしたら、善管注意義務違反になりますか?」と聞かれることがあります。ただ、これは、回答がとても難しい質問です。なぜなら、善管注意義務の内容は、委任契約の内容がどういうものかによることになるからです。

ですから、契約書を作ること、そしてその契約書の内容が、とても重要なのです。

そして、先ほど「かの有名な善管注意義務」と言ったのは、税理士が顧問先から損害賠償を請求される税賠では、ほぼ全部と言ってもいいくらいの事案で、「税理士の善管注意義務違反があるかどうか」が争点となるからです。

ただ、税理士の善管注意義務を考えるときに、共通して言えることは、

✓ 国家試験により高度の税法知識を有する者のみに税理士の資格が与えられている
✓ 税理士法により一定の業務の独占権が確保されている

ということから、税理士に対する社会的な期待の程度も高く、税理士には高度な注意義務が課せられる(より責任を問われやすくなる)可能性も高くなります。
ここは注意してください。

それでは次回から、顧問契約書の作り方に入っていきたいと思います。

*本連載は、毎月第4木曜日に更新を予定しております。

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