不動産オーナーのための家族信託 vol.2

遠藤家族信託法律事務所 弁護士 
遠藤 英嗣

2020/07/28

家族信託実務のバイブル『新しい家族信託』の著者、弁護士の遠藤英嗣先生が、信託実務のキーポイントや事例、最新の活用動向などを、専門家目線で解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.80(2020.6)に掲載されたものです。

Vol.2 遺言があっても勝手に相続登記はできてしまう!

相続人が単独で相続登記ができる登記制度  
遺言があれば、遺言執行者、あるいは受遺相続人において、相続を受けた遺産である不動産につき相続登記ができて、遺言で受遺者となっていない相続人は、相続登記はできないとお思いの方が多いのではないでしょうか。

しかし、ご承知の先生も多いかもしれませんが、被相続人名義の不動産については、相続人のひとりから単独で、法定相続分とおりの共有名義で登記申請することも可能なのである(不動産登記法63条2項)。

全相続人分の登録免許税をその者が負担することになるが、遺言があっても先駆けて、また遺産分割協議が整っていなくても、相続による所有権移転登記手続ができてしまうのである。

もちろん、これを他の相続人が止めることはできないのである。

登記を経れば不動産の共有持分は処分可能となる
相続人は、登記済みの自己の法定相続分(共有持分)につき、第三者に売り渡し、あるいは抵当権設定ができることになる。

この場合、遺言の執行の妨害行為については禁止されている(民法1013条)。すなわち、法は、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」とし、「この規定に違反してした行為は、無効とする。」としている。しかしながら、「善意の第三者に対抗することができない。」ともされているのであるが、遺言を認めようとしない相続人は、このことには意に介さないであろう。

登記済権利証は独り占めされる
これによって困るのが権利証(登記識別情報)である。

しかも、相続人のひとりから単独で相続登記申請した場合、登記識別情報通知(権利証に替わるもの)がその単独申請をした申請人にしか発行されないのである。つまり、他の相続人は所有権の登記名義人にはなるものの、登記識別情報通知の交付を受けることはできないのである。

登記識別情報通知は、かつての登記済権利証に替わるもので、不動産の売却や担保権(抵当権)の設定をする際に必要になる。登記識別情報通知(権利証に替わるもの)がないと、その後名義変更をした当該不動産を売買する際に、登記識別情報を法務局に対して提供することができず、登記識別情報の提供に代わる手続きが必要になり、困ったことが生起するのである。

このように、登記識別情報がないということは、本人確認情報の作成など余分な手間や費用がかかることになり、権限者が後れを取ることになるのである。

先駆けを許さないこと
本コラムは、そもそも「先駆けをできないようにすること」を紹介することにあるのだが、やはりそれでも遺言は資産の承継の王道であり、遺言を選択する場合の基本を知ることが、大事である。まずこのほうから紹介する。

先生方が、相続の相談を受けるときに、第一にやるべきことは、相続人の中に、かかる悪賢い先駆けをする相続人がいるかどうか、そこから調査に入ることである。

*本連載は、第4火曜日(不定月)に更新を予定しております。

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