税理士のヒヤリ・ハット体験談〈第1回〉

税理士法人古田土会計 社員税理士 
土田 大輝

2020/04/24

2020年4月より始まった当コラム。経済情勢が不安定な中、少しでも実のある内容の情報をお伝えしたいと思います。このコラムのお題は「税理士業務をしている中でのヒヤリ・ハット」の共有。なかなか痛いところを探るテーマです。私は税理士法人の社員税理士として税理士業務をさせていただいているので、最終的には『代表の承認』で決定となりますが、その判断材料を代表に提供することが、ヒヤリ・ハット回避のため肝要と考えています。

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第1回 役員給与のヒヤリ・ハット 社⾧の「妻に給与を払いたい」にドキッ!

さて、ヒヤリ・ハットのトップバッターは、『役員給与』です。法人のお客様相手に税理士業務をすれば、必ずご相談をいただくこの分野。ご相談の内容も多岐にわたりますが、今回はその中で、『社⾧の奥様に対する給与』のエピソードを取り上げます。役員給与については、実際支給がされた事後相談(特に決算後)では対応が遅く、思わぬ課税にもなりかねません。

【エピソード】
社⾧の奥様への給与 ~支給に値する労働又は職務の対価ですか?~

社⾧より「いま主婦として家にいる自分の妻へ、会社から給与を支払いたいのだけど…」と、ご相談を受けたこともあるかと思います。私はまず「社⾧、その目的は何ですか?」と質問します。女性の社会進出ということもキーワードとして回答をいただきますが、夫婦間での所得分散を目的とすることも多いです。

確認するのは、「奥様はどのような業務をされますか?」ということでしょう。当然全く業務に従事しない場合には、「使用人か役員か」「常勤か非常勤か」の問題抜きにしてNGです。その上で、奥様が使用人として働くのか、あるいは役員として働くのか、が選択肢になろうかと思います。労務法務の課題もありますが、税務においての課題については、次の通りです。

① 使用人としての給与(雇用契約)
使用人と会社とは雇用契約によって結ばれます。雇用契約では、会社からの指揮命令による労働の提供によって対価を受けることから、雇用契約書の締結と勤務時間の管理が必要になります。その上で、同族の使用人への給与については『不相当に高額』でないかの判定が必要になります。
実際にパート等として働き、それに応じた分の給与を支払っていただければ、税務上の課題はクリアするでしょう。間違っても、何も仕事をしていない状況下で給与だけ支払っていたということのないように、注意したいところです。

② 役員としての給与(委任契約)
会社の役員となるわけですから、会社の謄本に載り、当然責任について負うことになります。他の従業員・役員からの目や取引先との関係なども考慮しながら、役員就任を決定することが肝要です。その前提をクリアしたとして、税務の課題は次の通りです。

役員と会社とは、株主総会の任命を経て委任契約によって結ばれます。委任契約は雇用契約のように時間的制約はありませんが、(何も仕事をしないで給与の支給をすることのないように)業務内容を明確にし、その報酬については株主総会・取締役会の決議を経て、毎月同額で支給しましょう。実務としては、役員登記と報酬決定の議事録の備えが必要です。

報酬金額の多寡については、職務の対価として適正かどうかが税務調査でよく議論になります。役員は業務責任のほか、役員である以上、経営責任も問われます。その経営責任に対する報酬は、支払って当然です。そのために毎月取締役会を開き、奥様はそれに出席し、議事録に押印されることが大事だと考えます。
このように、社⾧からの「奥様へ給与を支給したい」というご相談事例を取り上げましたが、ヒヤリハットを防ぐためには、お客様とのコミュニケーションを常に密にとり、事前にご相談をいただけるか、事前に情報を引き出せるか、これがポイントとなるでしょう。税理士法人ごとに、『決算〇ヶ月目確認チェックリスト』や『毎月のお客様への質問リスト』等を作成し、運用されているものと思います。ヒヤリ・ハットが原因でリストに追記されたものもあると思います。

次回以降も、事例を取り上げながら、弊社でこれらチェックリスト等が作成された経緯も含めて、ヒヤリ・ハットをお伝えしていきます。

*本連載は、毎月第4金曜日に更新を予定しております。

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