税理士のヒヤリ・ハット体験談〈第5回〉

税理士法人古田土会計 社員税理士 
土田 大輝

2020/08/28

2020年4月より始まった当コラム。経済情勢が不安定な中、少しでも実のある内容の情報をお伝えしたいと思います。このコラムのお題は「税理士業務をしている中でのヒヤリ・ハット」の共有。なかなか痛いところを探るテーマです。私は税理士法人の社員税理士として税理士業務をさせていただいているので、最終的には『代表の承認』で決定となりますが、その判断材料を代表に提供することが、ヒヤリ・ハット回避のため肝要と考えています。

本連載のまとめは こちら

第5回 役員賞与は経費となるか?

かつて役員賞与は、『利益処分』つまり儲けた利益からの分配として取り扱われており、仮に費用処理したとしても、その金額は法人税法の経費(損金といいます)ではありませんでした。

平成18年の会社法の改正により、会計上の取扱いが大きく転換し、役員賞与も報酬(職務の対価)の一つとして費用として処理することとなりました。法人税法についても同様の時期に役員給与の制度が整備され、下記の3つの給与に該当するものが損金とされることとなりました。(当然、不相当に高額なものは除きます。)

①定期同額給与・・・毎月同額支給の給与
②事前確定届出給与・・・所定時期に確定額を支給する定めに従って支給する給与で税務署に対して事前に届出がされたもの
③業績連動給与・・・同族会社でない法人が業績に連動し支給する給与

今回は、この②の事前確定届出給与について、取り上げます。

【エピソード】
「役員に対して、賞与を支払いたい」に応えたい

役員も人です。毎月の給与以外に賞与を受け取ることは、嬉しいこと間違いありません。事前確定届出給与は、役員に対して毎月の給与以外に支給する給与ですから、「一般的な賞与のようなもの」とも考えられます。もちろん厳密に成果配分としての賞与ではなく、あくまで委任契約としての年間報酬の支給時期の問題ですが、役員が毎月の給与以外で税務上の損金として支給を受けることができるこの制度は、多くの中小企業にとって注目されています。

■ 事前確定届出給与として損金とするためには…
手続きとして、次の手順に沿って実施します。イメージⅠを合わせてご参照ください。

① 定時株主総会の決議
事前確定届出給与も役員の職務対価の一つですので、定時株主総会で↓
・対象者
・支給額
・支給時期(複数回の支給も可)
を確定させます。

② 届出書の提出
上記の①で確定させた給与を、次の提出期限までに税務署に届け出ます。
(設定:3月決算で定時株主総会が5月25日の場合)

提出期限:次のうち早い日(つまり6月25日)
・期首から4月経過日(7月31日)
・定時株主総会から1月経過日(6月25日)

③ 実際の支給
上記までの①で決めて②で届けた内容の通りに、支給します。
届出通りでなければ、損金となりません。

■ よくあるヒヤリ・ハット
事前確定届出給与は、前記の手順に沿う必要があります。そのため、届出の出し忘れ、支給忘れ、支給額間違い等、トラップが多々あります。特に支給時期が近づいた頃には、文字通り「事前」にお客様に声掛けをしていきましょう。

次のページ >>

■ 活用例のご紹介 ~役員のモチベーション向上~
専務・常務など、使用人兼務役員にならない役員のモチベーションを高めるため、「目標利益に向かって頑張るために、期末に事前確定届出給与を支給する」のは、どうでしょうか。

イメージⅡの通り、役員ごとに“届出通り支給したか”を判定します。そのため、事業部門ごとに目標利益の達成状況によって、支給するかどうかを検討するのです。
目標に達しなかった事業部門を統括する役員については、支給しない(イメージの役員C)場合には損金不算入となる金額は無いですし、全く0円では逆に今後のモチベーションの低下を招くことを考慮すれば、損金不算入にはなりますが、届出と異なる金額でも(少額で)支給するのも、一考でしょう(役員Bの例)。

■ 役員賞与の決算書表示はどこに?
一般的に役員賞与は社員の賞与と同様、販売費及び一般管理費に表示されますが、役員賞与が「利益処分」の前倒しであるなら、表示箇所は特別損失の部であるべきです。また役員賞与が年間報酬を14回に分けて、従業員と同じ時期に月額報酬の1ヶ月分を2回支給するような場合は、販売費及び一般管理費に表示すべきです。前者の場合は営業利益と経常利益が後者に比べて多く表示されるので、銀行等の格付けが高くなり、対外的な評価が高まるだろうとされています。

■ 届出と異なる支給(又は無支給)の場合の留意点
届出と異なる支給の場合、税法で定める臨時改定事由や業績悪化改定事由に基づき、期中に取締役会等で減額決議をして、その後1月以内に改めて届出を税務署に提出した場合には、その減額後の支給額通りで支給したものは損金となることとなっています。ただし、上記の活用例の場合、この臨時改定事由や業績悪化改定事由の要件には、多くの場合満たしません。

届出と異なる支給や無支給の場合、まず法律の問題をクリアします。役員個人としては、株主総会で支給日・金額が決定しましたので、報酬請求権が発生します。源泉所得税の取扱いについても、支給日以後1年たっても支給されない場合には、支給されたものとみなして、源泉所得税の納付をすることとされています。また受領辞退が支給日以後になった場合にも、その時に法人は支払ったものと取り扱われ、源泉徴収が必要になります。

つまり、こういうことです。

「支給日前に、各役員から受領辞退の申し出を会社に提出してもらい、それを受けて会社では取締役会で支給しないことの決議をする」

これを、忘れないでください。

また、届出額(総会決定額)と金額を異なる支給をする場合にも、 後々の役員間のトラブルに発展しないためにも、 取締役会でその旨の決議は必要だと考えます。

このように、事前確定届出給与の支給については、所定の手順を踏むことはもちろん、実際に支給をするか否かを決定する場においても、我々税理士のサポートが大事な場面だと思います。また、制度の趣旨を逸脱する、利益調整の手段となるような事前確定届出給与の利用は、立場上回避するよう監督することも、税理士の責務だろうと思います。そのうえで、お客様の経営に役立つ情報をご提供し、会社が良い方向へと進んでいければ、我々税理士として何よりの喜びです。

このコラムの全体のテーマは『ヒヤリ・ハット』ですが、毎月お客様のもとで経営を一緒に考えることで、ヒヤリ・ハットを回避するだけでなく質の高いサービス・税務を提供できることになるものと信じています。

*本連載は、毎月第4金曜日に更新を予定しております。

最上部へ