税理士

税理士のヒヤリ・ハット体験談〈第6回〉

税理士法人古田土会計 社員税理士 
土田 大輝

2020/09/25

このコラムのお題は「税理士業務をしている中でのヒヤリ・ハット」の共有。4月から始まりましたが、皆さんいかがでしょうか。経済情勢が不安定な中ですが、少しでもこちらを読まれている皆さんが、そして日本中の中小企業経営者が元気になれるように、実のある情報をお伝えしていきます。

本連載のまとめは こちら

第6回 正しい相続対策としての生前贈与をご提案しましょう!

4月からのヒヤリハットでは、主に法人税の項目についてとりあげてまいりました。
今月は贈与税です。年末に向けて、暦年贈与についてお考えのお客様も多いことかと思います。気を付けるべき点をしっかり押さえて、是非万全な対応をしていってください。

【エピソード】
その贈与、本当にされていますか?

中小企業の経営者とお会いしていると、ご自身の相続対策として何が良いのかを、よくご相談いただきます。もちろん答えは一つではないため、いろいろな情報を収集してご提案しています。その中で、一般的に「手を付けやすい」対策案に、贈与を毎年コツコツと行っていく方法があります。
贈与税は『基礎控除』と言い、贈与を受けた人ごとに年110万円の足切りラインがあります。年110万円までであれば、贈与税の申告・納付はいらないという決まりです。
ただし、その贈与した人がお亡くなりになった日から遡って3年以内にその相続人に対して行った贈与については、相続税の申告計算に含めるということにもなっています。
したがって、比較的年齢が若い方にとっては、長期間にわたって対策を行うことができる傾向から、利用価値が高いものと思います。

「その贈与、本当にされていますか?」

若い方にとっては、比較的もらう側の子・孫の年齢が低いことが想定されます。生徒・学生であることもあるでしょう。子どもへの教育上、大金を持たせることはできないため、それを親・あるいは祖父母である自分が管理することも考えられます。
この場合に税務当局は、贈与自体が無かったものと認定することが、よくあります。
贈与は民法における契約の一つで、「あげます・もらいます」の両当事者の認識が一致することが必要です。

Ⅰ【過去にあった事例① 自作自演は完全にアウト】
私は過去、こんな状況に出くわしました。
・金額部分が空白の贈与契約書に、まず息子が署名押印をする。
・それに後日金額を親が記入する(息子に金額を知らせない)。
・お金の振込みは、親が管理している息子の口座に親が送金。
・贈与税の申告書にも自署押印のみ息子が先に書き、それ以外を親が記入。もちろん納税も親がする予定。
この状況で、私にこの事実についてご相談をいただきました。すべての行為につき否認・法律違反が生じることをご説明し、この贈与といえないやりとりをやめていただきました。

Ⅱ【過去にあった事例② ただ預けただけ】
贈与契約書は交わしていて、親の口座から娘の口座に送金されているものの、実際は裏で「親の言うことを聞かないと後で返してもらうから、使わないように」と、その使用について止められている。
贈与はお金の所有権が移ります。いったん移ったものを後日「返して」は、ききません。
よって、このような約束に基づく送金は、贈与ではないということになります。

~贈与にまつわる都市伝説を切る!~

【基礎控除を少し超えて、申告した方がいい?】
いわゆる都市伝説でしょうか。年110万円の基礎控除を少し超えて贈与をして、贈与税の申告をした方が、贈与の事実を税務当局に伝えることができるため良いという考えがあるようです。これについては、法律上の根拠は全くありません。私は、贈与の事実が前記の通りしっかりあれば、あえて申告する程度の贈与にする必要はないと考えます。

よくある間違いに基礎控除の考え方があります。たとえば両親から息子にそれぞれ110万円ずつ贈与をしたら、受贈者の息子からすると220万円の贈与を受け基礎控除を超えるため、申告が必要になります。
このように、あげる側ではなくもらう側で基礎控除を計算しますので、注意しましょう。

贈与を受けた金額が基礎控除を超えたら、それ以上は累進課税の方式により、税額が変わります。比較的高齢な方など、自分の財産を早めに下の世代に移転させていきたい場合は、もらう側でいくらかの納税負担をしながらでも、財産を移していくことも一考です。
贈与額 年300万円であれば、190,000円の贈与税
 〃  年500万円であれば、530,000円又は485,000円※の贈与税
※直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与の場合
ご相談を受けた際に、どのような状況であるのかによって、いろいろ検討が必要です。

【連年贈与という言葉をご存じでしょうか?】
連年贈与とは、毎年連続して贈与契約を締結し、それに基づき贈与をすることです。1回1回の贈与が単独の契約取引です。例えば毎年100万円の贈与契約を別個でした場合、すべての年について基礎控除以下になりますので、贈与税の申告・納付はいりません。
それに対して、毎年100万円ずつ10年にわたって贈与を行うといった契約・約束がされている場合には、その契約・約束をした時に10年分の贈与を受ける権利をすべて受けたとして、その年に贈与税の申告・納付が必要になります。

これら両者の見分けは紙一重です。税務当局に後者の取扱いを認定されないように、相続対策として実行される際には、
① 必ず毎回贈与契約書を作成する
贈与契約は契約書が無くても成立しますが、第三者・税務当局に疎明するためにも、必ず贈与契約書を毎回作成し、残すようにしましょう。
② 贈与の事実をしっかり残す
これは連年贈与の対策だけではありませんが、贈与そのものを否認されないためにも、このヒヤリハットで注意喚起した項目は、押さえてください。

「金額・贈与の日にちは、毎回違った方がいい?」
毎回が異なった契約と装うためでしょうか。贈与の金額や日にちを毎回ずらすテクニックがあるようです。念には念を入れてということかと思いますが、大事なことは、あげる人・もらう人両当事者が、しっかりと贈与の事実を毎回確認することになります。この前提だけは外さないことが肝要です。

高齢社会に突入し、相続やそれに対する事前対策については、我々の業務の完全なストライクゾーンになったといえます。このコラムで、これからも都度とりあげていきながら、情報共有をしてまいります。

*本連載は、毎月第4金曜日に更新を予定しております。

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