知って得する法律相談所〈第1回〉

弁護士法人アドバンス
代表弁護士・税理士 
五十部 紀英

2020/04/15



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第1回 新型コロナウィルスによる採用内定の取り消しは許されるの?!

新型コロナウィルスの影響が留まることを知りません。このコラムをご覧になっている方は、学生さん・税理士試験の受験生、企業勤めの方とさまざまいらっしゃると思いますが、影響が全くない方はいらっしゃらないかと思います。

政府は3月13日、新型コロナウィルスの感染拡大で企業の経営が悪化していることから、学生の採用内定取り消しなどを行わないよう経団連など経済8団体に要請した、との報道がされました。また、厚生労働省は4月1日、内定を取り消しされた人に対する専門の相談員と支援窓口をハローワークに設置することを検討しているとの報道もされました。

内定取り消しは、企業の経営悪化などで話題になることがあり、近年では、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災の影響で、学生の内定取り消しが急増したことが話題となりました。新型コロナウィルスが原因とする内定取り消し者は、4月1日時点で、23社58人との厚生労働省の調査報告が公表されています。しかしこの数値はあくまで暫定的な数字に過ぎず、今後増加する可能性は大いにあると思われます。

そこで今回は、新型コロナウィルスによる採用内定取り消しが法的に違法になるのかについて弁護士が解説したいと思います。

多くの皆さんは、内定を受けただけでは、まだ就業が始まっておらず、賃金などの支払い義務も発生していないので、内定取り消しを自由にできると勘違いしがちです。
ところが、採用内定通知を受けた状態であれば、既に労働契約が成立し、正規の労働者と同じように、労働基準法など法律の保護にあると判断されます(最高裁判所昭和54年7月20日判決など)。
つまり、企業が内定者に対して、採用内定の取り消しをするには、従業員を解雇すると同様に、一定の要件を満たさなければ違法となるおそれがあります。

それでは、その一定の要件について、具体例もあげながら、みていきましょう。

① 内定を取り消さなければならない、正当な理由がある
企業の経営が悪化し、破綻する可能性もある場合などがその代表例です。採用者の気が変わったなどでは到底認められません。

② 内定を取り消す前に、様々な措置を講じており、内定取消しがやむを得ないこと
たとえば、早期退職者の募集や、賃金・賞与の引き下げなどです。

③ 解雇をする者の選定に合理性があること
たとえば、採用試験の点数や勤務条件が全く同じであるにも関わらず、片方だけの内定を取り消すことは合理性が認められない可能性があります。

④ 必要な手続きを行っていること
①~③の要件を全て満たしていても、労働組合や当事者に対してきちんとした説明義務を果たしていないと、違法と判断される可能性があるので注意が必要です。
厚生労働省は、内定者に対して内定を取り消すまたは撤回する場合は、事前にハローワークに通知を行う旨を定め、違反した企業に対しては、社名などを公表することにしています(平成21年1月19日厚生労働省告示第5号)。

⑤ 履歴書や面接内容に虚偽があった、あるいは内定後に新たな事実が発見された
資格や学歴の虚偽、逮捕された場合がその代表例です。しかし、これらの場合、直ちに内定取り消しが認められるわけではありません。最近の事例ですと、テレビ局のアナウンサーが学生時代のアルバイトの経歴が理由で内定取り消しの可否が争われた事件は、内定取り消しが違法とされました。内定取り消しが認められるかについては、虚偽内容が、業務の遂行にどれ程度影響があるかがポイントになります。

よって、今回の新型コロナウィルスの影響で採用内定が取り消される場合、主に上記の①から④の要件を全て満たすか否かがポイントとなります。

この3か月で新型コロナウィルスの感染が日本で拡大し、企業の様々な経営苦境が報じられてはいますが、上記の要件を全て満たしているケースは多くはないように思われます。
内定を取り消されたり、不当な条件を提示された方は、企業へ返事をする前に、弁護士やハローワーク、通っている学校などにきちんと相談してみてください。

*本連載は、毎月第3水曜日に更新を予定しております。

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