知って得する法律相談所〈第2回〉

弁護士法人アドバンス
代表弁護士・税理士 
五十部 紀英

2020/05/20



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第2回 新型コロナウィルスにより急増する自転車利用。4月から加入が義務化された自転車損害保険とは?!

東京では、2020年4月から自転車を利用する人全員に対して、自転車損害保険の加入が義務付けられました。このことは、埼玉県や大阪府など既に義務付けられている地域もありますし、保険会社やクレジットカード会社から保険の案内がたくさん送られましたので、ご存じの方も多いかと思います。

また、新型コロナウィルスの拡大と関連して、満員電車という、いわゆる3密状態を避けるため、自転車通勤をする人が増えているとも報道されています。

そこで今回は、自転車損害保険のことをあまり知らない人のために、

(1)自転車損害保険が義務付けられた背景
(2)自転車損害保険の加入が義務付けられている地域
(3)自転車損害保険の中身やその仕組み
(4)自転車損害保険に加入しなかった場合の罰則の有無

について、弁護士が解説します。

(1)自転車損害保険が義務付けられた背景
自転車は小さな子どもから老人まで幅広い年齢層の方が気軽に利用できる便利な乗り物です。また、最近は、電動アシスト自転車が普及したこともあり、保育園への送り迎えや観光地でのレンタルサイクルの導入など、より幅広い分野で気軽に自転車が活用されるようになってきました。

しかし、それと同時に自転車が原因となる事故が発生し、相手方にケガを負わせた場合に、加害者が負う損害賠償の金額も上昇傾向にあります。被害者が死亡したあるいは障害が残った場合には、数千万円以上にもなることも少なくありません。2008年に兵庫県で発生した、自転車に乗った小学生が女性にケガを負わせてしまい、意識が戻らず寝たきりになってしまった事件では、約9500万円の賠償命令が出されました。

この事件をきっかけに高額な損害賠償金が発生した場合でも、被害者側にとってはきちんと賠償が補償されるように、加害者側にとっては高額となった賠償金を払えるように、全国各地の自治体で、自転車を利用する人すべてに対し、自転車損害保険の加入が義務付けられました。

(2)自転車損害保険の加入が義務付けられている地域
自転車損害保険等の加入が義務付けられている都道府県は以下の通りです。

[加入が義務付けられている主な自治体]
仙台市、埼玉県、東京都、神奈川県、金沢市、静岡県、長野県、名古屋市、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、愛媛県、鹿児島県

[加入が努力義務となっている自治体]
北海道、茨城県、群馬県、千葉県、富山県、大阪府、鳥取県、徳島県、香川県、高知県、福岡県、熊本県

※上記以外の自治体でも、たとえば、山梨県は2020年10月に加入を義務付ける予定です。また、努力義務とは自転車損害保険への加入を促している状態のことをいい、強制化されているわけではありません。

また、自転車損害保険への加入が義務あるいは努力義務になっている自治体に住んでいなくても、これらの地域で自転車を使って通勤や通学などをする場合には、加入が必要です。

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(3)自転車損害保険の仕組み、保険の中身や罰則の有無
では、加入が義務付けられている自転車損害保険の内容についてみていきましょう。ほとんどの自治体で、自転車を実際に利用する者(未成年の場合は保護者も含む)だけではなく、営業など従業員が自転車を使って業務を行う場合には、会社にも自転車損害保険への加入を義務付けています。

また、自転車販売店やレンタルサイクルショップ、学校に対しても、顧客や生徒に対して自転車損害保険の加入の有無を確認させる義務を負わせたり、自転車損害保険に関する情報の提供をさせる義務を負わせています。

ここで注意が必要なのは、たとえ加入が義務付けられている地域だとしても、自動車の自賠責保険のように、自転車保険という名称の保険に加入しなければならないという訳ではないということです。

自転車損害保険の義務化とは、あくまで被害者にケガを負わせた場合の損害賠償に備え、個人賠償責任保険や日常生活賠償保障保険などに加入していればよいのです。

個人賠償責任保険とは、自転車事故に限らず、日常のトラブルで他人にケガを負わせたり、物を壊した場合に、加害者が負う損害賠償を補填する保険のことをいいます。また、加入が義務付けられている自転車損害保険は、あくまで自身のケガの保障までカバーされなくてもよいとされています。

保険会社からクレジットカード会社からのダイレクトメールを見て、慌てて自転車損害保険に加入する前に、まずはご自身が加入している保険の内容を確認し、ご自身や家族が自転車事故の加害者となった場合に、保障の対象となっているか、対象となっている場合、保障額はいくらくらいなのかを確認してみましょう。

たとえば、ご家族が加入している自動車保険に、自動車だけでなく自転車で相手手にケガを負わせた場合の保険も対象となっていることや、火災保険・クレジットカード会社のオプションとして加入する保険にも、自転車で相手にケガを負わせた場合の損害賠償の保障も対象となっていることがあります。

(4)自転車損害保険に加入しなかった場合の罰則の有無
2020年5月現在で、上記の地域内で自転車を利用しているにもかかわらず、自転車保険に入っていない場合に罰金が科せられるといった罰則が設定されている自治体はありません。しかし、自転車保険(あるいは個人賠償責任保険)は月額数百円の保険料で済むことが多く、負担もわずかで済みますから、万が一の交通事故の加害者になり、多額の損害賠償を負うことになった場合に備え、自転車を利用している人すべてが自転車損害保険に加入しておくべきでしょう。

その他、信号無視や、スマートフォンを操作しながらの「ながら運転」など、危険な運転をする自転車も増えてきました。そこで2015年に道路交通法が改正され、自転車運転講習制度が導入されるようになりました。この制度は、3年間の間に2回以上、悪質あるいは危険な自転車運転を行って取り締まりを受けたものに対し、所定の講習の受講を義務付ける制度です。自転車損害保険の加入と合わせて、覚えておきましょう。冒頭でお伝えしましたが、新型コロナウィルス拡大の影響で自転車通勤が増えています。慣れない自転車通勤のため、スマートフォンをナビ替わりにしている人は、くれぐれも気をつけましょう。

*本連載は、毎月第3水曜日に更新を予定しております。

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