パートタイム・有期雇用労働法施行で何が変わる
~企業が対応すべきポイントとは~

弁護士 小口正太郎

2020/04/06

同一労働同一賃金を柱の一つとするパートタイム・有期雇用労働法が2020年4月1日に施行されました。
(中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は、2021年4月から)

同一労働同一賃金とは

「同一労働同一賃金」とはどのような考え方なのでしょうか。この言葉を素直に読むと、「同じ労働をしている場合には同じ賃金を支払うべき」という、賃金に関する待遇差のみの解消を目指す考え方であるとイメージする方が多いかもしれません。

しかし、今回の法改正における同一労働同一賃金とはそのような考え方ではなく、同じ企業における正社員と非正規社員(パートタイマー、有期雇用労働者等)の間のあらゆる不合理な待遇差の解消を目指すという考え方です。

そのため、賃金に関する待遇だけではなく福利厚生や従業員の教育訓練等、様々な不合理な待遇の解消が要求されることとなります。

改正内容については、厚生労働省ホームページに詳細な資料が掲載されていますので、ご参照ください。本記事も、当該資料を参考に作成しています。

 

非正規社員の増加、賃金格差が大きいなかでの法改正

総務省の「労働力調査」によると、非正規社員は2019年で全労働人口の38.3%にも及び、その割合は年々増加傾向にあります。

一方、給与に関しては、正社員の年収が全国平均504万円であるのに対し、非正規社員の年収は全国平均179万円にとどまり、両者の賃金格差は大きいものとなっています(国税庁「平成30年分民間給与実態統計調査結果」)。

全国平均179万円という非正規社員の年収では個人消費が伸びず、経済成長が抑制されてしまいます。

そこで、賃金を上昇させることにより個人の所得を拡大させ、もって国民の消費を押し上げることで国の経済成長の底上げを行うという考え方が法改正につながりました。

以下では、パートタイム・有期雇用労働法によって何が変わるのか、事業主に求められる不合理な待遇差への対応について説明していきます。

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法改正により何が変わるのか

不合理な待遇差の解消にかかわる規制について、これまではパートタイマーについてはパートタイム労働法、有期雇用労働者については労働契約法で定められていましたが、今回の法改正によりパートタイム・有期雇用労働法に統合されました。

これに伴い、主に以下の3つの重要な改正が行われることになりました。

  • 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
  • 従業員に対する待遇に関する説明義務の強化
  • 行政による助言・指導及び裁判外での紛争解決手続の整備

 

以下では3つの改正点につき具体的に説明していきます。

 

⑴ 不合理な待遇差を解消するための規定の整備

①不合理な待遇差別解消についての考え方 ~均衡待遇、均等待遇とは~

パートタイム・有期雇用労働法では、同一企業内において、正社員と非正規社員との間のあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。

この不合理な待遇差については「均衡待遇」と「均等待遇」という言葉がキーワードとなります。

「均衡待遇」とは、正社員と非正規社員との間において職務内容等の違いがある場合にはその違いに応じた範囲内でバランスの取れた処遇をすることをいいます。

【具体例】
ある企業では、専門知識習得のためにキャリアコースを設けており、正社員はこのキャリアコースを選択し、結果として専門知識を習得しました。
一方、非正規社員はこのような専門知識を習得していません。

このようなケースにおいて基本給が能力や経験に応じて支給されている場合には、専門知識を習得した正社員に対してその能力に応じた非正規社員よりも高い基本給を支給するのは「均衡のとれた待遇」であると判断されます。

一方、「均等待遇」とは、条件が同じである場合には、待遇決定にあたり、非正規社員が正社員と同じに取り扱われることをいいます。

例えば、ある企業に、店長の正社員と、店長の非正規社員がいたとします。

そして、両者の店長としての業務の内容や責任は同じであり、人事異動等の条件も全て同じであったとします。

このように条件が同じであるにもかかわらず、非正規社員の店長には正社員の店長に比べ低い額の役職手当てを支給していた場合には均等待遇に反することになります。

 

②不合理な待遇差の解消にかかわる改正点

不合理な待遇差の解消にかかわる規定の整備について、改正前と改正後の規定内容を比較すると、次の図表のとおりとなります。

 

<改正前>

 

<改正後>

 

具体的な変更は以下の4点です。

  1. 均衡待遇規定については、「個々の待遇ごと」に不合理な待遇差であるかを判断するという判断基準が明確化されました。
  2. 有期雇用労働者にも均等待遇規定が適用されるようになりました。
  3. 均衡待遇、均等待遇の比較対象となる正社員は同一の事業主に雇用される正社員に統一されました。
  4. どのような待遇差が不合理とされるのかを明確化するため、ガイドラインが策定されました。

 

なお、ガイドラインは厚労省のホームページから見ることができます。

ガイドラインには多くの具体例が、項目ごとに分けられているので是非参考にしてください。

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⑵従業員に対する待遇に関する説明義務の強化

非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由等について、事業主に説明を求めることができるようになり、事業主は、非正規社員から求めがあった場合には、これらについて説明することが義務付けられました。

説明を行うにあたっては以下の3点に注意してください。

 

①待遇差の内容、理由について何を説明するのかについて

事業主は、説明を求めてきた非正規社員に対して待遇差の内容、理由について説明する必要があります。

「待遇差の内容」としては、正社員と非正規社員とで待遇の決定基準に違いがある場合にはその違いを、そして、正社員と非正規社員の待遇の個別具体的な内容又は待遇の決定基準を説明する必要があります。

例えば、給料に関する待遇の具体的な内容について、比較対象として選んだ正社員が複数いる場合には、給料の平均額などを示すことで足りますが、比較対象として選んだ正社員が一人である場合には給料の金額を明示する必要があります。

「待遇差の理由」としては、同じ決定基準のもとで待遇が違う理由(例えば、能力に応じて基本給を支払う基準があり、能力レベルが違うため基本給の額に差がでること)や、待遇の決定基準に違いを設けている理由(例えば、業務の内容や責任が違うこと)などを説明する必要があります。

 

②説明の方法

説明を求めてきた非正規社員がその内容を理解することができるように、就業規則、正社員の待遇内容を記載した資料などの資料を活用して、口頭で説明することが基本となります。

もっとも、説明すべき事項を網羅し、わかりやすく記載した資料であれば、その資料を交付するだけでも問題ありません。

 

③不利益取り扱いの禁止

説明を求めてきた非正規社員に対して解雇や配転などの不利益な取り扱いをすることは禁止されていますので、注意しましょう。

 

⑶行政による助言・指導及び裁判外での紛争解決手続の整備について

行政による事業主への助言・指導や正社員と非正規社員との間の待遇差等について紛争になっている非正規社員又は事業主が無料・非公開で利用できる裁判外での紛争解決手続が整備されました。

裁判外での紛争解決手続については大きく分けて、都道府県労働局長による紛争解決の援助と均衡待遇調停会議による調停の二つの手続があります。

これらの手続は、各都道府県の労働局雇用環境・均等部に援助の申立てを、又は調停申請書を提出することによって利用できます。

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事業主がとるべき具体的な対応

ここまでは、不合理な待遇差に関する考え方や注意点について説明しました。

では、事業主は具体的にどのように不合理な待遇差の有無を判断し、対応を行っていけばよいのでしょうか。

以下では、実際に事業主が不合理な待遇差がないかについて判断し、対応すべき手順を大きく4つのステップに分け説明していきます。

 

 

<ステップ①>

パートタイム・有期雇用労働法の対象となる非正規社員であるパートタイマーや有期雇用労働者(以下「取組対象労働者」といいます)を雇用しているか確認し、取組対象労働者がいる場合には、均衡待遇、均等待遇のいずれの対象になるのかを判断します。

具体的には、職務の内容(業務の内容、業務の責任の程度のこと)、職務の内容・配置の変更の範囲(転勤、昇進といった人事異動や、本人の役割の変化などの有無や範囲のこと)の両方の条件が取組対象労働者と正社員とで同じ場合には、均等待遇の対象となり、それ以外の場合には均衡待遇の対象となります。

 

<ステップ②>

短時間かフルタイムか、有期か無期かを判断し、取組対象労働者をパートタイマー、有期雇用労働者といった社員のタイプごとに分けます。

そして、取組対象者がどのような待遇を受けているのか待遇の現状を整理します。

さらに、取組対象労働者と正社員の間で待遇の適用の有無や、決定基準に違いがあるかを確認します。

 

<ステップ③>

ステップ①で検討した均等待遇対象者と均衡待遇対象者に分け、ステップ②で明らかになった待遇の違いが合理的か否かを検討します。

 

・均等待遇対象者について

全ての待遇(基本給、賞与、手当等)の決定基準が正社員と取組対象労働者とで同一であるかを確認し、同一でない基準がある場合には待遇を同一にし、待遇差を是正することが必要となります。

・均衡待遇対象者について

以下の図の手順により待遇差が合理的か判断します。

 

以下、手順1~3について具体例に沿って説明します。

 

【具体例】
役職手当について、一定の役職に就く比較対象となる正社員には支給しているが、責任のある役職に就くことが想定されていない取組対象労働者には支給する制度がない場合。

 

◎手順1

役職についている比較対象となる正社員は、相応の責任のある業務をこなす一方、取組対象労働者は責任のある役職に就くことが想定されていません。

そのため、役職手当の性質・目的は役職に就く者の責任の重さを評価して支給されていることになります。

 

◎手順2

役職手当の性質・目的が役職に就く者の責任の重さを評価して支給することだとすると、社員の職務の内容(業務の内容、責任の程度)が、役職手当の支給に影響を及ぼしていると考えられます。

そのため、待遇に関連する考慮要素は職務の内容となります。

 

◎手順3

違いが生じている理由は、対象労働者は職務の内容に関し責任の重い役職についていないという点にあることになります。

比較対象の正社員間でも責任の違いによって支給が分かれていることを考えると、役職に就いていない対象労働者に役職手当を支給しないことは不合理ではないと説明できると考えられます。

 

<ステップ④>

待遇差の是正の必要がある場合には、対応方針を定め、従業員の意見も聞きつつ、就業規則、賃金規程等の各種規定を改定しましょう。

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同一労働同一賃金のルールに違反した場合

同一労働同一賃金のルールに違反して不合理な待遇を行っていたとしても罰則はありません。

もっとも、不合理な待遇を行っていた場合には、従業員から正社員との待遇格差について損害賠償請求を受けるおそれがあるので注意が必要です。

 

おわりに

法改正により不合理な待遇差の解消がより求められるようになりました。

不合理な待遇差の解消は、社員の働くことに対する意欲を向上させ、企業の労働生産性を高めることにもつながります。

そのため、不合理な待遇差が無いか、上記の4つのステップに沿って雇用状況をチェックするようにしましょう。

また、中小企業の場合には2021年4月から法が適用されるためまだ時間があると思われるかもしれませんが、規定の見直しなど準備には時間がかかりますので、早めに着手することを心掛けましょう。

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